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神戸簡易裁判所 昭和44年(ハ)470号 判決 1971年12月20日

原告 永田舟

右訴訟代理人弁護士 木下元二

同 野沢涓

被告 菱田靖子

右訴訟代理人弁護士 安藤真一

同 奥村孝

同 小松三郎

同 石丸鉄太郎

主文

被告は原告に対し別紙目録記載の建物について所有権移転登記手続をせよ。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

一、当事者に求める裁判

(一)  原告

主文同旨の判決

(二)  被告

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

との判決

≪以下事実省略≫

理由

一、(売買)

≪証拠省略≫によると、請求原因(一)の事実が認められる。≪証拠判断省略≫

二、(登記、その原因たる贈与)

請求原因(二)の事実については当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫によると、被告がその主張の日に、訴外信彦より本件建物の贈与を受けたことが認められる。右認定に反する証拠はない。

三、(贈与の効力)

右贈与契約の効力につき判断する。

(一)  原告は、右贈与契約は公序良俗に反すると主張し、その理由として右贈与に至った経緯、事情を詳細に述べるけれども、仮に右経緯、事情により右契約がなされたとしても、それは贈与契約の動機にすぎず、しかも右動機が両者間に表示されて右契約が締結されたと認めるに足りる資料はないので、原告の右主張は失当である。

(二)  次に、原告は、訴外信彦の契約取消権の代位行使を主張し、特に本件において右代位行使が許される旨を開陳するけれども、右見解を支持することができず、本件においても当事者夫婦以外の者の契約取消権の代位行使は許されないと解するので、原告の右主張は採用しない。

四、(対抗力)

進んで、本件登記の対抗力について判断する。

(一)  被告と訴外信彦が夫婦であることは当事者間に争がなく、右信彦が本件建物を被告に贈与したことは前説示のとおりである。原告は、右贈与が夫婦間になされたものであるから通常の取引行為ではなく、従って民法一七七条の登記原因とはならないと主張するが、同条は意思表示による不動産物権の変動をすべてその登記原因とするもので、夫婦間の贈与であるとの一事をもって、同法の適用がないということができない。そのほか、原告は、被告が二重譲渡であることを知って贈与を受けたこと、右贈与による登記名義の取得は移転補償を受けることのみが目的であることをそれぞれ主張するけれども、いずれも右事実を認めるに足りる証拠はなく、この点についての原告の主張はいずれも採用しない。

(二)  しかしながら、≪証拠省略≫を総合すると、訴外信彦が本件建物を原告に譲渡した後、原告よりその所有権移転登記を求められ「地主の印鑑がいるので登記はできない。」と返答して、故意に右登記を引き延ばし、その間特に右建物を選んで被告にこれを贈与し、かつ自からその所有権移転登記手続をとったこと、被告は夫信彦から単に右建物を贈与するといわれ、これを応諾したものの、右登記手続に全く関与せず、すべて夫に任せて特に登記名義に関心を払わなかったことの各事実が認められる。≪証拠判断省略≫。そうとすると、右信彦は原告からの移転登記請求を回避するため、その手段として被告名義に登記を変更したことが推認され、この事実と、被告が特にその登記名義に関心を払っていなかったこと、夫信彦と経済的に同一体であることなどを併せ考えると、たとえ被告がその登記名義の取得につき悪意または背信性がなかったとしても、原告より右建物の所有権移転登記を求められるや、その登記名義が自分にあるとし、原告の登記欠缺を主張することは、甚だしく信義則に反し、かつ登記制度上の地位ないし権利を濫用するものであって、民法一七七条は、かかる被告に対してまで対抗力を附与してこれを保護しているとは到底考えることができない。原告は、登記がなくても、被告に対し、本件建物の所有権を主張できるといわねばならない。

五、(移転登記請求)

原告が本件建物につき、その所有権にもとづき、直接被告に対し所有権移転登記手続を請求できると解される(最判昭和三四、二、一二参考)ので、この点についての原告の主張も正当である。

六、よって原告の本訴請求は理由があるので、これを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 国盛隆)

<以下省略>

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